文 / 由利尚子
写真 / yume
モデル / 由利尚子
あめの日
傘が、きらいだった。
いや
傘を持つのが、きらいだった。
すこしおとなになって
なんで嫌いだったんだっけ、と考える。
あー、そうだ。
ランドセルに引っかけた傘が
歩くたびに足にツンツンしてくるのが
いやだったんだ。
それだけだっけ。
それだけ、だった。
もっとおとなになって
雨の日のこと。
はい、と差し出されたのは、おおきな傘。
ゆりちゃんが傘を持ってたら晴れるんだよー
そう言って、その人は傘を差し出す。
ん?と思いながらも
渡されたおおきな傘を、持つ。
傘を、持つ。
みんな、笑ってる。
空が、晴れてきた。
わたしは
傘を
持っている。
わたしは
笑ってた。
雨の日の、こと。
雨は、きらいじゃない。
思い出すのは、小学3年の夏。
ピアノのおけいこから自転車で帰ってたら
急に雨が降ってきた。
それも大雨。すごい勢いの。
わーこんな雨ってあるんやー
服着たままおふろ入ったらこんな感じかなー
そう思って、ひとりでケラケラ笑ってた。
帰ったら母親に夢中でおふろ雨のことを話してた。
雨は、きらいじゃない。
その日、雨が降り出しそうな空でも
天気予報で雨が降るって言っていても
大丈夫、と根拠のない自信で
傘は置いていく。
結果、だいたい雨に降られて濡れて帰ることになる。
それでも、傘は置いていく。
あめの日の、こと。
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由利尚子 の、こと
オフィシャルサイト『yuRiNaoko』
https://yurinaoko.com/
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