無印良品の家と暮らす

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

文 / 由利尚子
写真 / yume
モデル / 由利尚子

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ

好きな花はなんですか?

あの日はまだ
咲いてなかった。
タクシーから見る景色は
グレーと黒が印象的で
ほとんど色がなかった。
唯一、信号の赤だけが記憶に残ってる。

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

さい頃住んでいた家の裏に

桜の木があった。
やわらかいピンクの花が
毎年当たり前のように
咲いて、散る。
葉っぱがでてきて
毛虫さんがでてきて
桜があったことも忘れて
1年たって
また当たり前のように
咲いて、散る。

ひらひら
ひらひらひら。
私は散った花びらを見ていた。

かわいいな

地面に張り付いた花びらが
桜のシールみたいだった。
でも次の日
花びらはきれいに消えていた。

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

きな花はなんですか?

私は答えられない。
花なら何でも好きだった。
チューリップ
ひまわり
かすみ草
シロツメグサ
何でも好きな自分が
時々、すこしいやだった。

スキナハナハナンデスカ

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

つのまにか

コートがいらなくなっていた。
たった数日の間に
外の世界がやわらかくなっていた。

タクシーからぼんやり景色をみる。
桜がこれでもかってくらい
満開に咲いていた。
会いたかった。
ほんとうに。
このいちねん、ずっと。
腕の中、あたたかいな。

桜が咲いた、ぼくは咲くのをまっていたんだよ、の、こと

た1年がたって

開花予報が流れる。
今年はすこし早いな。

ん、こんなことわかるようになったんだ。
あーそうか。
そうだね。

これからずっと、
桜を見るたびに思い出すね。
今ならはっきり言える気がする。

すきなはなはさくらです。

information

由利尚子 の、こと

オフィシャルサイト『yuRiNaoko』
https://yurinaoko.com/